列の最後尾でスーツ姿のプラカードを持っている人に聞くと、堀江由衣=ほっちゃん(声優/29歳)のライブを観に来たファンに列だということ。すごい・・・。私は慌てて列に並んだ。

↑ファンの列。すごいよ・・・。
それにしても・・・こんなにほっちゃんのファンっているんだ。私は普段ほっちゃんのラジオ番組をMDに録音して聴いて、紹介されるリスナー=ファンの存在を耳から感じていた。しかし実際巨大な数のほっちゃんファンを目の当たりにすると、その数の多さに驚きを禁じ得ない。ほっちゃんあるいはアニメファンなど、そういうものを甘く見ていた気がする。また、いつもジュニアアイドルの100人弱くらいの小規模なイベントに参加しているので、その感覚で行ったせいか、そのギャップに驚いてしまったのかもしれない。
お金で換算するなんて世知辛いけれど、これだけ声優のライブに人が集まるのである。オタク市場というのは、誠に巨大という他はない。

↑奥の建物がホールA。
慌ただしく、会場入り。ロビーのグッズ売り場に行くと、人混みで何が何処に売っているのか分からない。とりあえずパンフレットが欲しかったので、係員にグッズ売り場の場所を聞いてそこへ向かうと、これまた長蛇の列。最後尾にいた係員が大声で、「今からお並び頂く方は、もう開演時間に間に合いませ〜ん!公演後にご利用下さ〜い!」と叫んでいる。凄すぎ。
公演後で良いかと、自分の席へとりあえず向かった。私は二階席。幾重にもエレベーターを乗り継いで、グレーの絨毯の迷路のようなホール内を席へ急いだ。
会場内に入ると、すごい広く、高さもある巨大な空間であることに驚く。ステージは、遙か前方に見下ろす感じ。
回りのファンを見ていると、気合いが入っているなぁと感心する。ほっちゃんのロゴ入りTシャツ、ロゴ入りリストバンド、頭にはウサギの耳飾り。耳飾りは、男女関係なくしている。とにかく身体一杯に、ほっちゃんファンであることをアピールしている。私はというと、そこまでほっちゃんファンであることをアピールする意欲もない。
プロレスの話だが、25歳くらいまでの私はよくプロレス会場へ足を運んだのだが、プロレス関係のTシャツやらキャップやらを身につけて、プロレスファンであること外に誇示していた。我こそはファンとしてすごいんだぞ、っていうところが見せたかったのだと思う。
ほっちゃんグッズに身を包んでいるファン達も、そのような一種の自己顕示欲からそうしているのではあるまいか。だからといって、それを否定するつもりはない。若い頃は、そういう季節があるものだなぁと感じているのである。今の私は、そこまで自分を誇示するのは疲れたし、主役は若い人に譲るという感じである。まぁ、Tシャツや何やらを買うお金もないのだけれど。また私のハゲ頭にウサギの耳飾りなんて、見た目に痛いしね。
6時半ちょっと過ぎ、ライブスタート。ステージには、セットがあるのみでバンドの姿はない。演奏はCDのカラオケ部分で行うようだ。代わりに、ステージにはダンサーが8人登場。皆ウサギの耳飾りをしている。
ステージのバックにはビジョンがあって、そこに森の木の下で眠るほっちゃんの姿が写される。目覚めた彼女は時計を見て、「送れちゃう」と叫ぶや走り出す。そして穴に落ちてしまう。
そしてステージセットの中央の高くなった部分に、我らがほっちゃん登場。ブルーのフレアのドレス。『不思議の国のアリス』のイメージなのだろう。
ファンは全員一曲目から総立ち。座っていてはステージが見えない。やれやれ、立って観るのか、辛いなぁ〜とライブに慣れてない私はそう思った。それにひきこもっていて、最近めっきり体力落ちたしなぁ。何時間立ってなければならないんだろう。
ファンは皆ペンシル状の蛍光ライトを持っている。後で分かるが、グッズ売り場に売っていたものだ。観客は集まってリハーサルでもしたかのように、同じ動作で蛍光ライトを振る。
曲に合わせてのかけ声も、さながら80年代アイドルファンのようなかけ声で、練習したかのように大合唱である。また曲に合わせて皆一斉に飛び上がるので、床が地震のように揺れる、揺れる。耐震偽造でもあったなら床が抜けるのではないかと、心配になるほどである。
その風景を観ていると、例えは悪いかもしれないが、ファシストとそれを讃える群衆の姿を想像してしまった。ちょっと異様なものがある。ほっちゃんは声優、それもアイドル声優であるが、アイドルとファンとの関係は、ファシストと崇拝者の関係に似ているのかもしれない。
詳しい曲順とかは忘れてしまったので、知りたい方は熱心なファンの方のサイトにあるであろう、ライブレポートなどを参照して下さい。
ステージは、ストーリー仕立てになっていた。コンサートツアーのタイトルに“堀江由衣をめぐる冒険”とあるが、ちょっとした冒険話になっている。前述したが、『不思議に国のアリス』のイメージを借りている。
ほっちゃんはあるお城の舞踏会に参加するために、王様に献上する指輪を届けようとする。しかし途中で黒いケープの背高の男に、指輪を奪われてしまう。それを取り戻すためには、“マ〜ツウ〜ラの剣”が必要だという。その剣を、ライブ会場のロビーの売店で買ってくる(ちなみに1,800円也)。
マ〜ツウ〜ラの剣で黒装束の男と戦い、勝って指輪を取り戻した彼女は、お城の舞踏会で王様に指輪を献上。宴は続く・・・といった内容。
冒険の途中、彼女はピンクの可愛い熊の姿に変えられたりする。これは熊の縫いぐるみに別人が入って、声を彼女が当てるという趣向。声優の長所をよく生かした趣向であろう。熊になりたいというアイデアは、彼女が出したらしい。ライブのアンコール時の彼女のトークで、裏話的に告白していた。
剣を手に入れるのに、売店まで行って買う場面は、ちょっと複雑な気分がした(ちなみにステージのビジョンでその模様が生中継されている趣向である)。ギャグなんだろうけれど、かつてお金で何でも買えると公言して、最近捕まった某IT会社社長を生み出した、現代日本の価値観が反映されているように思えたからだ。もっと夢のあるギャグが浮かばなかったのだろうか。
ほっちゃんは数曲おきに、衣装チェンジ。着替えが大変だ。ピンクのフワフワした衣装とか、黒のシックな衣装だったり、ファンの目を楽しませてくれる。昨今オタク業界で流行のメイド服のような服もある。

↑ステージのほっちゃん。米粒の大きさしか見えないこ
とに加え、撮影禁止なので、資料無しで思い出して描い
てみた。だから実際の衣装のデティールとは異なります。
トークコーナーで、赤の可愛いメイド服のほっちゃんは、「大阪(公演)では、クルって回ると、可愛いって言って褒めてくれるんですよ」と発言。客席のあちこちからは「やって〜〜っ!」の声。ほっちゃん、クルクルと回ると、観客「ほっちゃん、可愛い〜」。彼女は、「みんなの方が可愛いよっ」というと、客席から「ほっちゃんにはかなわないよ〜」の声。
このやりとりから、ほっちゃんは、自分がクルクル回る→ファン「可愛い〜」→ほっちゃん「みんなの方が可愛いよ」→ファン「ほっちゃんにはかなわな〜い!」というやりとりを今後のライブのお決まりにしようと提案。こう文章で書いていくと、ほっちゃんが正直ちょっと嫌な女に思えてしまうが、会場内の雰囲気はものすごく好意的。彼女の持つ可愛さとほんわかした印象、なによりコロコロ可愛らしい声が、嫌な女感を払拭して、ちょっとおちゃめさん、って感じで彼女の要求を許してしまう雰囲気を作っている。今後のライブで、ほっちゃんとファンの交流を深めるやりとりとなって行くだろう。
2時間でひとまず幕が下りるが、ここからアンコールタイム。アンコールの大合唱でほっちゃん登場。赤いツアーTシャツを着ている。
今回の大阪、名古屋、東京のツアーの舞台裏話などを話し始める。剣を使って立ち回りをするのだが、ダンサーの分まで剣が必要だったため、東京中の東急ハンズをめぐって、パーティーグッズの剣を買い出したらしい。だが一店舗あたりそんなに剣が売ってないので、一度に揃えるのに大変だったという。二回目に買い出しにいった時は、池袋店では、剣が売れると判断されたのか、大量に剣が売り場にあったという。
大阪公演では、段取りで失敗も。ほっちゃんが黒いケープの男と剣で闘って、王様に献上する大事な指輪を取り戻すシーンがあるのだが、大阪ではほっちゃんが勝利したのに男役の人が指輪を持って退場してしまった。指輪を取り戻す段取りだったのが、失敗してしまい、指輪無しでその後も演じ続けるという異例の事態。ストーリー上重要アイテムなだけに、困ったことだ、その後男役の人は、色々なスタッフさんから、「指輪のことだけは忘れずに」と口を酸っぱくして言われたという。今だから話せる笑い話。舞台は生ものなんで、何が起こるか分からない。
色々話は尽きなくて、25分くらいトークは続いた。その後、2曲アンコール曲を歌って盛り上がった館内。客席からの尽きることない「ほっちゃ〜ん!」の声に、終始笑顔だった彼女も、ついに涙で声を詰まらせた。わりと冷静に観ていた私もさすがに感じるところがあって、思わず「ほっちゃ〜ん!」と叫んだ。私は回りのファンみたく身振りやコールもしなかったのだが、彼女の涙に心動かされ、身体を動かし始めた。歳をとって割りと冷めた目で観てしまう私の心まで、彼女の思い、温もりが届いた感じだ。
ほっちゃん、ダンサーさん達、スタッフの皆さん、ライブお疲れ様でした。心の固くなった高齢ヒッキーの私にも、あなた達の温かい気持ちは届きましたよ。
ライブ終了後急いでパンフを買おうとグッズ売り場に向かうと、またしても長蛇の列。うわぁ、参ったなぁ。仕方なく列に並ぶ。お客はロビーに溢れてきたためか、我々は一端階段で7階(!!)まで上がるように係員に指示される。この会場は実は7階建てくらいの高さがあるのだ。
2時間40分近く立ちっぱなしのうえに、ビルの7階まで競歩のようなペースで上らされる。運動不足のヒッキーは、ヒザが笑いましたよ。並ぶファンも、黙々と階段を上る。これだけキツイ階段のぼりを、集まったファンは黙々とこなす。普段こんな無茶なことはしないだろう。我々を動かす巨大なエネルギーの元は、堀江由衣なのだ。堀江由衣が、我々を7階までダッシュで上がらせているのだ。すごい、堀江由衣、29歳。
大観衆を集め、自在に観衆を魅了するほっちゃんは、誠にすごい存在だった。目で、耳で、肌で、彼女のすごさを体感した次第だ。恐るべし、堀江由衣。

↑ライブが終わって、会場出口付近で余韻に浸
るファン達。