2013年09月04日

宮崎駿監督引退作『風立ちぬ』

 宮崎駿監督の引退作『風立ちぬ』を観てきました。

 以下、ネタバレありますので、ご注意下さい。


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↑『風立ちぬ』パンフレット表紙。

 久しぶりに、宮崎作品、ジブリ作品を観ます。『ハウルの動く城』以来です。

 実は『もののけ姫』あたりから、個人的に宮崎作品があまり面白くなくて、ついて行けない感じがありました。『ハウル〜』で、もう決定的につまらなかったので、もういいか、と。

 本作は、太平洋戦争で活躍した零戦の設計者・堀越二郎をモデルに、同時代の作家・堀辰雄のイメージを載せて、主人公を作り上げています。タイトルの『風立ちぬ』は、堀辰雄の同名小説からとられてます。

 お話は、堀越二郎の少年時代から、太平洋戦争終戦までの話。二郎が、美しい飛行機を作りたいと願い、大日本帝国海軍に協力する形となって、結実します。

 二郎は思想的に、軍国主義ではないけれども、飛行機を作ろうとしたら、その時代は戦争の時代だったということで、結果的に戦争に加担することになります。

 この矛盾は、宮崎監督自身の抱える、矛盾とも重なるでしょう。

 監督は、思想的には左翼ですし、東映動画時代は、熱心に労働問題の運動をされてました。戦争反対の人。

 その一方で、少年時代から、大のミリタリーマニア。兵器大好きなんですね。アニメファンには、有名なことで、私が今更指摘するまでもないでしょう。

 平和主義だけの兵器大好きの矛盾が、堀越二郎の抱える矛盾と重なる気がするんです。

 ですから、監督自らの内面を描いたような気が、私はします。自分は何者であるか、という感じ。

 『風立ちぬ』のパンフレット内で、二郎の声を担当したアニメ監督・庵野秀明に、「宮さんがちょっと大人になっていると思った。少し大人に近づいた映画を作った。だって地に足が着いたついてましたから」と話してます。

 宮崎監督は、テレビのインタビューかなにかで、「3.11(東日本大震災)以降、ファンタジーを作れる状態ではなくなった」と語ってましたが、脳天気なファンタジーと言ったら監督に失礼ですが、そうではなく現実に向き合った、やっぱり地に足をつけた作品を作らざるを得なかったのかもしれません。

 ですから、実在の堀越二郎に題材を持ってきたんでしょうし、彼をモデルに選んだ内面に、宮崎駿個人の平和主義でミリタリー好きという業の深さが現れてしまったのではないでしょうか。それが、作品のリアリティーを支えている気がします。

 宮崎監督と言えば、とにかく飛翔シーンのダイナミックさで、それが宮崎アニメのファンタジーを支えていたでしょう。

 本作にも、堀越二郎の見る「夢」の中で、その表現が発揮されています。

 夢のシーンでしか、ファンタジックなシーンが描けない所に、なんというか、宮崎監督自身が大人になったというか、クリエーターとしての老いを感じます。

 宮崎監督はかつて『紅の豚』(1992年)で、主人公ポルコ・ロッソに「飛べない豚は、ただの豚さ」と言わせてますが、まさに今、監督は「ファンタジーで飛べなくなった」感じなので、そうなると宮崎アニメではなくなるでしょうから、引退の時だと、私は思うのです。

 本作で引退するということは、私は賢明ではないかと思います。

 戦争に向かう暗い時代に、それでもその時代の人間として前向きに生きようとした、二郎。彼の妻・菜穂子。

 監督は、現在の日本に感じる政治的・経済的な不安を、この作品に込めたようにも感じます。あの頃と今は、似てるんだという。

 ちょうど私が抱えている不安と同じで、なんか久しぶりに宮崎監督作品にリンクできた気がしました。『もののけ姫』以降、監督の作品に感じていたつまらなさは、実は、監督の上から目線の主張に共感出来なかったからですが、今回はそうではありませんでした。目線がほぼ同じという感覚です。

 二郎の心の師で、彼の夢に毎回出てくるイタリアの飛行機設計家ジャンニ・カプローニが、二郎の終戦直後の夢に出てきます。

 セリフはうろ覚えなんですが、多分こんな会話をしてます。

二郎「ここは夢ですか。地獄かと思いました」
カプローニ「地獄か。少し違うが、似てるかもしれんな」

 映画を見終わった、まさに私はこんな気分でした。

 夢のような、地獄のような。それが今の日本。

 まさに今の日本の時代の気分を表しているセリフに感じます。それと勝手ながら、私個人の抱える問題もリンクしてきて・・・。

 夢や理想を思いながら、地獄のような今を、リアリストとして生きて行かねばならない。

 ほんと、切ない映画でした。

 私自身、この映画がまた見たいかと言われれば、しんどくて見たくないですが、1回は見て欲しいと誰かに薦めたい映画です。


※『紅の豚』の予告編をどうぞ。

紅の豚 予告編


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posted by 諸星ノア at 19:29| アニメ・声優など