2012年11月24日

『澄江堂主人』、今ここにある不安。

 マンガ『澄江堂主人』中篇・後篇(山川直人著/エンターブレイン刊)を読了。




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↑『澄江堂主人』後篇・表紙。

 『澄江堂主人(ちょうこどうしゅじん)』は、作家・芥川龍之介をマンガ家と見立てて、大正から昭和にかけての世相と、芥川とその仲間達の苦悩を描いた作品です。

 時代は昭和初期ですが、驚くほど今の日本の状況と似ています。

 関東大震災、震災後の内閣が短命(3年半で総理大臣が5人)、世界恐慌、不況、内務省による出版物の検閲、軍事力強化・・・。

 最近の日本はー

 東日本大震災、小泉内閣後の2006年から2012年まで総理大臣が6人、リーマンショック、デフレ不況、青少年健全育成条例によるマンガへの規制、自衛隊から国防軍への動きと憲法9条改正への動きなど・・・。 

 日本を覆っている巨大な不安が、昭和初期の時代と符号している。その先は、戦争しかない。

 そんな危機感が、山川直人先生のペンを動かしているのではないでしょうか。これは昔の話ではなく、今とこれからの日本の物語だと思います。

 特に私が気になったところを、抜粋します。

 澄江堂主人・中篇のp.49、表現の自由についてー

「安寧秩序・風俗壊乱・・・なにがいけないのか基準があいまいでわからないんだよ」
「法律はあいまいに作って、気に入らないものを処分する・・・今も昔も権力の常套手段さ」

 同p52〜53、内務省の検閲官についてー

「検閲官ってどんな人間なんだい?」
「真面目なんだよ。自分たちがやっていることが、正しいことを心の底から信じてるんだ。世論もね、漫画の規制が表現の自由への圧迫だとは考えてくれないらしい・・・」
「真面目や善意は怖いからなぁ。俺たち漫画家は、萎縮せず描くだけさ・・・」

 これは、山川先生の嘆きだし、多くの日本のマンガに携わる人々、出版社やプロアマ問わずの危機感だと思われます。

 私も時代の不安を感じていますので、この作品には強く共感しました。

 ただ、読んでいて気分が重くなるのも事実ですが。

 でも、商業誌でこういうテーマを描ける力のある、山川直人先生は、貴重な存在です。

 芥川龍之介は自殺してしまいますが、山川先生がそうならぬよう願います。


※プロレスです。

 全日本プロレス、1975年12月6日、足立区体育館にて。オープン選手権公式戦、ジャイアント馬場vsバロン・フォン・ラシク。

 オープン選手権の初戦が、当時国際プロレス常連外国人レスラーであった、バロン・フォン・ラシク。ラシクのストマック・クロー=胃袋つかみに苦しむ馬場。

 最後は、馬場が16文キックから32文ロケット砲を炸裂させて、大逆転。ラシクというBクラスレスラー相手に、意外に苦戦している馬場さんです。

1975.12.06-OC-Giant Baba vs. Baron Von Raschke [OPEN CHAMPIONSHIP-OFFICIAL GAME]


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posted by 諸星ノア at 20:36| 読書感想(マンガ含む)