『古本屋になるには2011』レポート前編からの続きです。
第二部の座談会です。
座談会では、最近10年に古書店を開業した人5名が、体験談を話してくれます。
出席者は、かげろう文庫の佐藤龍氏、いにしえ文庫の岡田則夫氏、相澤書店の相澤健次氏、古書玉椿の石井佐祐里氏(紅一点)、古書赤いドリルの那須太一氏。それと、東京古書組合事務局長、志田雅和氏。司会は、西村文生堂の西村康樹氏。
佐藤龍氏は、古本屋開業8年目。大学時代に、神保町の古本屋でバイトをして、そのままその店に就職。カタログ販売の面白さを知り、独立して古本屋になったそうです。
岡田則夫氏は、学研に35年勤めた後、定年後の隠居仕事として、長年古本屋の親父になりたかったので、開業したそうです。開業4年。落語や大衆演芸専門のお店。神保町一、小さい店だとか。個人的な印象ですが、岡田氏はその口調から、落語好きだなって分かる人。落語口調というか。長屋のご隠居風です。
相澤健次氏は、大学の留年が決まるが、家庭の事情で大学にいられず、神保町の古本屋に就職。のちに、独立。開業7年目。主に学術書のお店。
石井佐祐里氏は、開業1年くらい。大学時代、新刊書店でバイト。大学卒業後、就職せず、好きな古本を買う生活。その後、古本屋に就職し、二年間修行。そしてオンラインの古本屋を立ち上げ、手頃な物件を見つけて、店舗を開く。郊外(多摩地区)の店なので、客層が古本慣れしてないので、こちらから提案する形で本を置いているとか。それと喫茶スペースもあります。
那須太一氏は、本を買うのが好きで、サラリーマン(出版社営業)を早期退職して、古本屋を開業。場所は、下北沢。住宅街なので、お客はほとんど来ないらしいですが、古本の即売会に参加して、利益を出しているようです。開業何年目かは、失念(すみません)。
司会の西村康樹氏から、5人に、共通の質問が出され、出席者はそれに答えるという形式で、座談会は進みます。
まずは、古本屋開業時の苦労話。
佐藤氏は、自分独自の顧客を作るのが大変だったとか。それで、自分の母校だとかに営業をかけて、本の注文を取ったそうです。
岡田氏は、手持ちの本があったので、知り合いに倉庫を借りて、ぼちぼち始めたらしい。ともかく隠居仕事なので、無理をしないのがモットーだとか。退職金には手を着けないで、費用50万円くらいで始めたそうです。
相澤氏は、元いた古書店の社長が、大物だったので、独立後は、あの社長の弟子ということで、交換会に参加しても、同業者に仕入れさせてもらえなかったとか。ほとんどいじめじゃないかっていうくらい。それで、いわゆるセドリや、学術書の出張買い取りで、しのいだそう。それと、組合員は兼業はいけないんですが、生活のために、清掃業をやったとか。
石井氏は、ただ古本屋をやるという決心だけで、当初は売る本はない、お金もない状態だったとか。それで、手持ちの本、知り合いから譲ってもらった本、オンライン古書店を辞める人から譲ってもらった本、などで始めたそうです。
那須氏は、幾分か弱音がちらちら出てました。店舗の家賃11万に、子供もまだ小さくて養育費など諸々あって、始めるより、現在の経営の方が大変そうです。サラリーマン以上に大変だとか。店舗に置く本、即売会で売る本など、仕入れにドンドンお金がなくなっていく状態。でも、本が好きなので、仕方ないと思っているそうです。
続いては、古本屋になってみて、古本屋の印象はどう変わったか?
佐藤氏は、古本屋として独立するために、古本屋で修行したので、入る前と後での、印象の違いはないとのこと。入って大事だと思ったのは、いかに現金をもっているかということ。欲しい本で、100万単位のものでも、すぐ買えるか。家一軒分の本の買い取りの注文があったら、100万円とかその場でキャッシュで払えるか。ともかく、資金繰りが大変だ、と。資金力が大事。
岡田氏は、大体思ってた通りだったとか。35年間勤め人だったので、その調子ではできないので、自分のスタイルで無理なくやっていこうということ。古書店始めてからは、飲み友達が増えたのが良いらしい。
相澤氏は、勤めていた古書店の社長が、随分お膳立てをしてくれたので、スタートはしやすかった。しかし色々あって(前述)、生活のためにバイトをしたことも。やっていて嬉しいのは、亡くなった研究者の本などで、その歩んだ歴史を見ることができたことだそうです。
石井氏は、とにかく毎日が楽しいのが良いらしい。大変だから、楽しい。自分の裁量でできるのが楽しい。
那須氏は、市場=古本交換会に参加するようになって、店舗売りだけではない、色んな本の売り方があることが知れて良かった。お店はおろそかになってしまったが、古書組合に入り、即売会などで売り上げを出せるのが良い。なるべく古書店を続けたいが、大変なので・・・という話です。
最後に、会場の参加者へのメッセージ。
佐藤氏。
古本屋を始める動機は、ビジネスに徹するか、本が好きかのどちらか。自分は、後者だった。そして「あわよくばもうけてやろう」という野心がある。市場を利用できるのは、様々なメリットがあるので、是非、組合に入って欲しい。
岡田氏。
今は便利な時代で、ネットを見れば、値付けはできる。本が好きなら、古本屋は出来るはず。組合は、経営の「生命線」だと思うので、入った方が良い。
相澤氏。
自分は学術書専門なので、あまりアドバイスはない。自分としては、今は毎日同じ作業の繰り返しで、あまり面白くない。壁にぶち当たっているところ。そういう時に、組合に入っていると、そこの人間に、メンタルな面ですごく支えてもらっている。そういうメリットも、組合にはある。
石井氏。
組合に入って、交換会に参加するようになって、自分の店の棚が変わってきたようで、お客様にも喜んでもらえている。組合に入ることで、本のプロにもまれて、良い勉強になる。
那須氏。
店を持つなら、人通りのあるところで。交換会では、買った本に自分の欲しくない本が混じっていたりするが、それが売れたりすると嬉しい。予想外の出来事のうれしさがある。
以上で、座談会は終了。
続いて会場の参加者参加による、質疑応答です。
質問1
石井氏に質問。
「新刊書店でバイト経験があるそうですが、新刊書店と古本屋では、何が違いますか?」
石井氏
「お金の使い方が違います。新刊書店で棚の作り方を学びました」
質問2
「組合人は、何故兼業はダメなのですか?」
東京古書組合・志田氏
「古本屋は手間がかかる仕事なので、兼業は遠慮してもらってます」
質問3
「ブックカフェは、良いのですか?」
志田氏
「古本が主ということなら、大丈夫です」
質問4
「大量の在庫管理は、どうしたらいいのでしょう?」
よみた屋・澄田氏
「(パソコンで)データベース化が大切です。ウチの店は、1,000円以上の本をデータベース化してます。それ以下の値段の本は、管理の手間とコストを考えると合わないので、やってません」
西村文生堂・西村氏
「今時の古本屋は、パソコンが出来ないと、相当不利です」
質問5
「どのくらい本があれば、古本屋を始められますか?」
岡田氏
「大体3,000〜5,000冊くらいあれば、大丈夫」
質問6
石井氏へ質問「古本と喫茶の、売り上げの比率は?」
石井氏
「均一本の売り上げくらいが、喫茶スペースの売り上げです。コーヒー、紅茶を250円で出してますが、お客様は日に5人くらいです」
西村氏
「ガンガン売りたければ、喫茶コーナーを作らない方が良いですよ。(喫茶コーナーは)場所取りますから」
以上で、「古本屋になるには2011」は、終了です。
参加して感じたのは、ただ漠然と本が好きってくらいでは、古本屋はできないだろうなってことです。
相当自分から強い動機を持って、きちんと戦略を立ててから行わないと、痛い思いをするような気がします。
座談会で、相澤氏や那須氏が、古本屋運営の難しさから、弱音みたいなものを話されてましたけど、古本屋の難しさを知る意味で、貴重に思います。
岡田氏のような、老後の年金の足しにするくらいの感覚を、30代の妻子持ちの人がビジネスモデルとして、マネすることは出来ないでしょうね。ただ岡田氏のスタンスは、すごく憧れますね。あくせくしてないで、身の丈にあった感じで。
よみた屋の澄田氏のスタンスは、戦略的という感じで、シビアな感じがします。私のようなひきこもりは、マネできないですね。あんなにポジティブになれないし。
受け身な性格には、向かない感じですね。相当前向きで、本が超好きで、センスがあり、数字にシビアでないと、無理っぽい。「起業」だから、まぁ社会性がない私には、難しい業種なんだろうな。
やる気と意欲のある人には、チャレンジし甲斐がある業種でしょう。自分の裁量で、いかようにも自由に出来るのが魅力。
少し古本屋の現実を知ることが出来て、興味深い講座でした。
ー『古本屋になるには2011』レポート後編(了)。
※アニメ『うる星やつら』(1981〜1987年/原作:高橋留美子/キティフィルム)から、ED「コズミック・サイクラー」(1982年)をどうぞ。
歌っているヴァージンVSって、あがた森魚参加のユニットなんですね。知らなかった。80年代の、脳天気なハッピーさが、良い感じで出てますね。
作詞・作曲・編曲・歌/ヴァージンVS。
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2011年10月04日
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