一峰先生と我々は、『黄金バット』(昭和41年)のコーナーへ移動です。
一峰「『黄金バット』は、小学生の頃、紙芝居でやっていて大好きでねぇ。だから、描かせてもらうのは嬉しかった。
拍子木を叩くと、タダで紙芝居が観られたんです。でも、ガキ大将にその役をとられて、なかなかできなかった。それで、少し離れたところで、紙芝居を観てました」

↑『黄金バット』。
一峰「今年の9月に「京都マンガサミット」というのがあって、参加してきましたけど、昔から紙芝居をしているおじさん、アンドウさんといったかな、その人が黄金バットの紙芝居の実演をやったんです。
黄金バットは、正義の高笑いというのをするんだけれど、アンドウさんの高笑いはさすがだなと感じました。僕も出来るかと、童心に返ってやりましたが、できましたね。それとバロン吉元(マンガ家)が、オレにもやらせろって来たんで、我々3人で、正義の高笑いをしました」
ー注釈ですが、一峰先生が「アンドウさん」とおしゃったのは、推測ですが、京都国際マンガミュージアム紙芝居師の安野侑志(あんの・ゆうし)氏のことではないかと。
閑話休題。続きです。
展示は、『スペクトルマン』(昭和46年)です。時代順から言えば、ここには『ウルトラマン』が入るべきですが、入り口から見えやすいところに『ウルトラマン』の展示をした関係で、『スペクトルマン』が並んでます。

↑『スペクトルマン』。
一峰「これは、『ウルトラマン』と『ウルトラセブン』が終わって、しばらく怪獣物がなかったので、『スペクトルマン』の依頼が来た時、久しぶりに怪獣物が描けるんで、嬉しかったですねぇ。
原作者は、うしおそうじさんといって、この方はマンガ家でしてね。この人も上手かったです。
『スペクトルマン』で調子が良かったので、次もうしおさん原作の『ライオン丸』を描かせてもらいました
一峰大二の名前はどうでもいいでんすけど、今でも『ウルトラマン』とか『ライオン丸』が絵として残ってくれたら、とても嬉しいです」
『ウルトラマン』(昭和41年)です。
一峰「最初に言いましたけど、この時は楳図かずおと競作で、楳図さんには負けたくない!と思って描きましたけど、負けましたねぇ。楳図さんが独特なんで、僕のは子供っぽいものにして、怪獣も分かりやすい絵にしました。怪獣なんかは、主線は筆で太く描いてます。
ウルトラマンのパンツは、本来はバミューダパンツみたいですけど、足を長く見せたいと思ったので、短いパンツにしました。口の表現なんかも、苦しがっている時に、口を開けた絵にしたりしています」

↑『ウルトラマン』。
『ウルトラセブン』(昭和42年)。
一峰「『セブン』の時は、同時に兄弟子の桑田次郎が描いてました。ご存じのように、桑田次郎は絵が上手いので、頑張りましたが、負けました〜(苦笑)。
テレビは、今は横長のテレビがありますけど、この当時は四角でした。ですから、マンガは横に広く見せようと思って、意識して横長のコマを描いています。

↑横長のコマ。
『マン』と比較するとお分かりになるかと思いますが、『セブン』は少し大人っぽく描いています。
ここで、一通り終わりましたが、何か質問があれば・・・」
ファンA「石ノ森(章太郎)先生の『イナズマン』(昭和48年)を描かれてますが、石ノ森キャラを描くのはどうでしたか?」
一峰「私はその頃、テレビ部門担当で、スケジュールが空いた三ヶ月で、『イナズマン』を描かないかと出版社に言われました。
それで、向こう(石ノ森)は絵が上手いので、困ったなぁと思いました。でも断ると飯が食えないので、やりました」
ファンB「岡友彦先生のところに作品を持って行ったわけですが、どのような絵を持っていかれたんですか?リアルな挿絵みたいなものですか?」
一峰「マンガです。手塚さんだとか『イガグリくん』(福井英一)の絵を描いて、持って行きました。岡先生や、樺島勝一さんとか、リアルな絵を描きながら、マンガっぽい絵を描かれるじゃないですか。
それと、(リアルな挿絵などの)難しい絵は、描けないから(苦笑)」
ファンC「『ウルトラマン』で、実写に登場しない怪獣を描かれてますが、先生ご自身が考えた怪獣は、どれなんですか?それとも、台本が全部あったんですか?」
一峰「え〜と、どうだったかなぁ。昔のことなんで(おぼえてないんだけど)。おーい○○くん、どうだったっけ?」
○○くん(先生の関係者?)「深海から出てくる怪獣だけです」
一峰「だ、そうです。他は台本があったんじゃないかな」
ー深海から出てくる怪獣というと、「ヤマトン」かな?
ファンD(私)「エアブラシを使うきっかけとか教えて下さい」
一峰「アメリカのデザイナーが、広い面を塗るのに、エアブラシを使ってるということを、中沢啓治さん(『はだしのゲン』で知られるマンガ家。一峰先生の元アシスタント。)が教えてくれたんです。それで、ペンキ屋で小さいコンプレッサーを買いました。
それでついこないだ、この原画展のポスターを描いていて、バックの星をエアブラシで吹いていた時、プスプスプスッていって止まっちゃって。壊れました。今まで40年間コンプレッサーを使ってきて、その最後の仕事になったのが、このポスターなんです。だから皆さん、大事にして下さい(笑)」

↑このポスターのバックの星ですね。
ファンE「今連載はあるんですか?」
一峰「ありません。だから、貯金で暮らしています。印税もちょこっとあるけれど・・・。貯金は大事ですよ。今世界同時恐慌だけど、日本が大丈夫なのは、貯金があるからでしょう」
ファンF「今後の展望はなんですか?」
一峰「なるたけ、美味い物食っていきたい。幸い僕は、手に震えがきてないんで、まだ斜線とか引けるんです。今でも絵が描けるのは、ありがたいですね」
ファンG「近年の作品(一コマ風刺マンガ)は、絵柄が違いますけど、どうしてですか?」
一峰「それは、絵が上手くないからなんです。手塚先生とか、絵の上手い人は、誰が観ても手塚治虫の絵ですけど、僕のは下手なんで、誰だか分からない。絵柄を変えているのは、絵が上手くないからです。
岡先生に、絵が上手いと得することが多いけど、そうでないと損することが多いと言われました。だから君は、何でも描ける、何でもこなせる、脇役みたいな人になりなさいって言われました
ですから、これからマンガ家になりたい人、絵が上手い方が良いですよ。
それと、展示の最後にある、紙にセロテープが貼った跡がある原稿についてですが、昔はマスキング用紙とかなかったんで、人物だけを描いてそれをカッターでくり抜いて、残った原稿に背景とかエアブラシで描くんです。それで、切り抜いた絵を、元の原稿にはめるわけです。テープは、その跡なんです」
ちょうどココで、予定していた1時間のギャラリートークが終了。一峰先生をかこんだ我々ファンは、大拍手。
一峰「今日は5人くらいしか来ないんじゃないかなぁって思ってたんですけど、1つ桁が違いました。ほんとうに、ありがとうございます。
昔、一晩かかって描いた、ラストのページがあったんです。すごく苦心したんです。
電車に乗っている時、つり革を握って立っていたら、目の前に座っている子供が、まさに僕が苦心して描いたページを読んでました。一晩かかったんだぞって内心思ったんですが、その子はサッとそのページをめくったんです。
悔しくてね。それを師匠に話したら、「一人の子供が0,5秒しか観なかったとしても、10人いたら5秒の人生を、君は頂いているんだよ、だから・・・」」
と、ここまで話したら、先生は感極まって、涙をポロポロ流されました。
一峰「泣くつもりじゃなかったんだけど・・・すみません。
マンガは素晴らしいんです。一時マンガは悪書と言われてましたけど、手塚先生が「マンガはおやつです」と言って、かなり環境は良くなりました。でも、マンガを変えて、育ててくれるのは、やっぱり読者なんです。
だから皆さん、マンガの楽しさを、ページをめくる楽しさを、今の子供にも使えていって下さい!」
またまたファンみんなで、大拍手。一峰先生のマンガで育ったかつての少年達と、一峰先生が、同じ空気の中で一体となりました。
私は、一峰マンガの存在は知ってましたけど、それを読んで育ったわけではないんです。近年のマンガショップの復刻版で、先生のマンガのファンになったんですね。
一峰先生の熱く大らかなヒーローマンガは、リアルになりすぎた最近のマンガにない、癒しを感じているのです。言い方は悪いですけれど、牧歌的な嘘っぱちの世界に、心地よさを感じるんです。身体のサイズに合わせて伸びる、ウエストのゴムひもの様な、大らかな一峰マンガ・・・。
先生、すみません。ほめ言葉になってないですよね。でも、人間のサイズがかわっても、それを許容して受け入れてくれるマンガなんですね。人生の一時期しか楽しめない作品ではないんです。
だからこの日も、オジサン達が目を輝かせて大勢、一峰先生の元に集まったのでしょう。先生の原稿を通して、人生を分かち合った者同士という、そんな絆を感じるトークイベントでしたね。
先生、いつまでもお元気で、またトークショーなどやって下さいね。ありがとうございました!

↑一峰ヒーローよ、永遠に!
※『ナショナルキッド』(1960年/東映)から、OPを貼ります。映像はちょっと見づらいです。
National Kid
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「黒い秘密兵器」を思い出します。
当時の定番で、主人公・椿林太郎は
ジャイアンツの投手で、魔球が
きっかけで引退するというラストでした。
『黒い秘密兵器』は、私は未読なんですが、ファンが多いですよね。私の予備校時代の知人が、好きだったと話してましたね。この日のトークショーでも、『黒い秘密兵器』の単行本にサインを求める人がいました。